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東京高等裁判所 平成7年(う)36号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役三年一〇月に処する。

原審における未決勾留日数中一四〇日を右刑に算入する。

押収してあるビニール袋入り覚せい剤一四袋(当庁平成七年押第一〇号の1ないし14)及び自動装てん式けん銃一丁(同押号の15)を没収する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人藪下紀一及び被告人各提出の控訴趣意書に、これに対する答弁は、東京高等検察庁検察官大栗敬隆作成の答弁書に、それぞれに記載されたとおりであるから、これらを引用する。

第一  法令適用の誤りの主張について(被告人の控訴趣意書二丁裏末尾三行以下)

論旨は、原判示犯罪事実第二記載の銃砲刀剣類所持等取締法(以下、単に「銃刀法」という。)違反の事実に関するものであるが、要するに、被告人は右事実に関して自首し、けん銃を預けていることを話して自主的に提出しているのに、原判決は被告人について刑の免除(被告人は免訴と主張しているが、刑の免除の趣旨と解する。)をしなかったというのであり、原判決の法令適用の誤りを主張する趣旨と解される。

一  まず、銃刀法三一条の四を本件のけん銃の所持に即して検討すると、同条は、けん銃の所持者が当該けん銃を提出して自首したときは、当該けん銃の所持等その使用に直接結びつく行為に係る罪に限ってその罪の刑の必要的な減軽又は免除を定めており、自首について任意的な刑の減軽を定めた刑法四二条一項の特別規定となっている。そして、銃刀法三一条の四は、刑法四二条一項と対比すると、自首としては「未タ官ニ発覚セサル前」を要件としないものの、所持するけん銃の提出を要件とし、しかも、前記のようにけん銃の所持罪等に限定して刑の必要的な減軽又は免除を定めているから、けん銃の提出を促してその使用による危険の発生を防止することを主たる目的としたものといえる。

二  次に、この「けん銃の提出」の意義について更に検討すると、前記の本条の立法目的からしても、また、「提出」という文言からしても、犯人が任意にけん銃の事実上の支配関係を捜査機関に移転することをいい、捜査機関に自ら手渡すのがその典型的な形態といえるが、例えば、けん銃を隠匿したコインロッカーの場所を伝えてその鍵を送付し捜査機関に当該けん銃を取得させることもこれに含まれると解される。また、犯人がけん銃を任意に提出することについて困難な事情があり、その代替手段として捜索、差押という強制手段が用いられている場合にも、なお「けん銃の提出」に当たると解するのが相当である。さらに、その時期は、必ずしも自首と同時又はこれに先行する必要はないというべきである。

三  これを本件についてみると、被告人は、原判示犯罪事実第一記載の覚せい剤取締法違反の罪による起訴後の勾留中の平成六年六月一〇日に、取調官に対して本件けん銃所持の罪についてその隠匿場所を原判示の犯罪事実第二記載の場所と具体的に述べて自首し、同日同所で行われた捜索にも立ち会って、その指示した場所からけん銃が発見されて差し押さえられ、捜査機関においてこれを取得していることが明らかである。そして、被告人が身柄拘束中であり、しかもけん銃の隠匿場所が第三者の管理する場所であったことを考えると、被告人にはけん銃を任意に提出することについて困難な事情があってその代替手段として捜索、差押が行われたと認められるから、その時期が自首後であったとしても、被告人は銃刀法三一条の四にいうけん銃を提出して自首した者に該当するというべきである。

四  そうすると、原判決は、けん銃の隠し場所を明らかにして自首したことを被告人に有利に量刑上考慮したにとどまり、銃刀法三一条の四を適用して刑の減軽又は免除をしなかった点において、法令の適用を誤った違法があり、かつ、右の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかというべきである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

第二  破棄自判

そこで、量刑不当を主張する弁護人及び被告人の各控訴趣意に対する判断を省略して、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により、更に次のとおり判決する。

原判決が認定した事実に法令を適用すると、被告人の原判示第一の行為は覚せい剤取締法四一条の二第一項に、同第二の行為は銃刀法三一条の二第一項、三条一項にそれぞれ該当するが、被告人には原判示の前科があるので、刑法五六条一項、五七条により右各罪の刑についてそれぞれ再犯の加重をし、原判示第二の罪について、被告人はけん銃を提出して自首しているから、本件情状に照らし銃刀法三一条の四、刑法六八条三号により法律上の減軽をし、以上は、同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により重い覚せい剤所持の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重(但し、短期はけん銃所持の罪の刑のそれによる。)をした刑期の範囲内で被告人を懲役三年一〇月に処し、同法二一条を適用して原審における未決勾留日数中一四〇日を右刑に算入し、押収してあるビニール袋入り覚せい剤一四袋(当庁平成七年押第一〇号の1ないし14)は、原判示第一の罪に係る覚せい剤で犯人の所有するものであるから、覚せい剤取締法四一条の八第一項本文により、押収してある自動装てん式けん銃一丁(同押号の15)は原判示第二の犯罪行為を組成した物で犯人以外の者に属しないから、刑法一九条一項一号、二項本文を適用して、それぞれ没収し、当審における訴訟費用については、刑訴法一八一条一項但書を適用して、被告人に負担させない。

(量刑の理由)

原判示の被告人に有利、不利な事情(ただし、けん銃の所持に関し「隠し場所を明らかにして自首をしている」とあるのは「けん銃を提出して自首をしている」と改めるべきである。)のほか、本件けん銃が旧日本軍で使用されていたけん銃であって、被告人は実包を所持していないこと、被告人の反省の情等所論指摘の諸点をも考慮して、主文のとおり量刑した。

(裁判長裁判官 小林充 裁判官 植村立郎 裁判官 小川正明)

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